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基礎知識
2022.04.12

旋盤加工における潤滑油の役割と選定時の注意点を解説!

潤滑油の役割と選定時の注意点

工作機械での加工と切っても切れない関係にあるのが、加工部分や機械に供給する「(油剤)」です。適切な油剤の選定は、高精度な加工や設備の維持に欠かせません。

今回はそうした油剤の中でも、機械の摺動面に使用する「潤滑油」について取り上げます。

潤滑油の種類や役割、選定時の注意点について、分かりやすく解説していきます!

旋盤加工に必要な油は主に3種類!

旋盤加工に必要な油は主に3種類

旋盤加工では、主に摺動面用潤滑油・油圧作動油・切削油の3種類の油が必要不可欠です。

  • 摺動面用潤滑油…往復台や心押し台、刃物台に供給されることで、摺動面の摩擦を軽減する。
  • 油圧作動油…潤滑油の一種で、油圧ポンプで発生したエネルギーを伝達する役割を担う。これにより、主軸台の運動やチャックの開閉が行われる。
  • 切削油…切削加工部に供給され、①潤滑作用、②冷却作用、③洗浄作用を持つ。加工精度の向上や工具寿命の延長に重要な役割を果たす。

これらの油剤を正しく選定し、適切に使用することが、高精度な加工を行うためのカギとなります。

潤滑油とは

摩擦面の摩擦及び摩耗の低減を主な目的として用いられる,通常,精製された油。

引用元:JIS B 0162-3

滑り合う個体間の摩擦や摩耗を減少させるために用いられる物質を総じて「潤滑剤」と呼びますが、そのうち液体状のものを「潤滑油」と言います。

さまざまな場面で使われる潤滑油ですが、具体的にどのような種類や役割があるのか見ていきましょう。

潤滑油の種類

潤滑油は、その用途から大きく「工業用」「自動車用」「船舶用」に分けることができます。

潤滑油の種類

その中でも工業用に分類される「油圧作動油」「摺動面潤滑油」が旋盤加工に関係する油剤です。

また後で詳しく説明しますが、油圧作動油と摺動面潤滑油を兼用する「多目的油」という油種も存在します。

(小西 誠一・上田 亨『潤滑油の基礎と応用』コロナ社、1992年、1-2ページ)

摺動面潤滑油の役割

旋盤の往復台の案内面(摺動面)機構には、「すべり案内」と「ころがり案内」の2種類があります。

すべり案内ところがり案内

すべり案内」は摺動面同士の接触面積が大きいため、機械の剛性が高くなり、減衰性が高い(振動を吸収する)というメリットがあります。そのため、高い加工精度が要求される機械に採用されていることが多いです。

すべり案内において、摺動面同士は完全に接触しているわけではありません。きさげ加工により表面に彫られた微細な油だまりに油が入りこむことで、薄い油膜が形成されます。

この油膜を形成し摺動面がスムーズに動くようにするのが潤滑油の役割です。

ころがり案内」は、案内面の間にコロや玉を転がすことで摺動を行う方法で、摩擦抵抗が小さいのが特徴です。ころがり案内の潤滑には、加工の条件などに応じて潤滑油、またはグリースが用いられます。

潤滑油の粘度

潤滑油には、サラサラの(粘度が低い)ものからドロドロの(粘度が高い)ものまでさまざまな種類があります。

この粘度はISOによって規定されており、「VG○○」(○○には数値が入る)で表します。

数値が小さいほど粘度が低く、大きいほど粘度が高くなります。

ISO粘度グレード番号
引用元:JIS K 2001:1993

粘度が高い潤滑油を使用すると、油膜は形成されやすいですが、高速運転時のテーブルの浮き上がり等の原因となってしまいます。

逆に粘度が低い潤滑油では、油膜の形成が不十分なことにより、スティックスリップ現象※が発生する可能性があります。

※スティックスリップ現象…「stick=くっつく・止まって動かない、slip=滑る」で、摺動面において、連続した滑らかな滑りにならず、止まる→動くを小刻みに繰り返すこと。びびり現象の一種

多目的油とは

多目的油の長所と短所

油圧作動油と摺動面潤滑油を兼用できる油剤のことで、錆びにくい、摩耗しにくいといった特徴を持っています。

多目的油を使用するメリットとして、たくさんある油種を統合できることが挙げられます。扱う油の種類が減ることで在庫管理が容易になり、油種の混同による発注ミスなども低減できます。

しかし、一口に「多目的油」と言っても、明確な規定はありません。そのため、摺動面の潤滑をメインとしたものやギヤの潤滑を重視したものなど、さまざまな製品が混在しています。

潤滑油の正しい選定は高精度加工のカギ

潤滑油の正しい選定は高精度加工のカギ

潤滑油には、さまざまな性能を持つものがあり、さらに多目的油も多くの種類が販売されています。

しかし上述した通り、油の粘度やその他の性質により、加工精度が大きく左右されてしまいます。

このことから、高精度な加工はもちろん、機械を長く使い続けるためには、適切な潤滑油の選定が極めて重要になります。

潤滑油が与える影響

潤滑油の選定時に粘度が重要なことはお分かりいただけたかと思いますが、同じ粘度でも、どの油剤製品を使用するかによって加工にさまざまな影響を与えることが分かっています。

以下に、潤滑油が旋盤加工に与える影響について挙げていきます。

摩擦係数

摩擦係数とは、摩擦力(2つの物体の接触面に働く力)と垂直抗力(接触面に垂直に作用する力)との比です。いわば物体の滑りにくさを表す値で、値が大きいほど滑りにくくなります。

スライドを低速で動かす場合、適正な潤滑油を使用しないと油膜が十分に形成されず、摩擦係数が大きくなってしまいます。

この結果、スティックスリップ現象が発生したり、機械を停止させた後急に動かした時に、指令に対してスライドが上手く動かず、スライド過負荷アラーム※が出る可能性があります。

※旧タイプの当社製品には、本機能が搭載されていない場合があります。

送り追従性

送り追従性とは、NCプログラムで指令した通りにスライドが移動する性能のことです。

摺動面の潤滑が不十分な場合、反転時は特に指令値に対してスライドが動かず、実際の移動量との差が出てしまう可能性があります。

切削油分離性

旋盤では通常、切削部に切削油を供給しながら加工を行います。切削油は、その後装置を循環して再度使用されますが、その際に摺動面で使用した潤滑油が混ざってしまいます。

そのため、潤滑油には切削油とすばやく分離する性能が求められます。

潤滑油の切削油分離性が低い場合、切削油と潤滑油が混ざることで切削油本来の性能が損なわれ、腐敗→悪臭の原因になることがあります。それだけでなく、本来の潤滑性能も低下する恐れがあります。

潤滑油選定時に注意すべきポイント

潤滑油選定時に注意すべきポイント

前述の影響から分かる通り、潤滑不足によるトラブルを防止し、高精度な加工を維持するためには、潤滑油を正しく選定し使用することが必須条件になります。

潤滑油を選定する上でポイントとなるのが、機械メーカ指定の潤滑油を使用することです。

実際に、指定油以外の潤滑油を使用したことにより、機械に不具合が発生した事例も報告されています。

こうしたトラブルの防止だけでなく、適正な潤滑油を使用することで、機械の性能を保ったまま長く使い続けることにも繋がります。

潤滑油・作動油を兼用できる油剤で一時的に費用を抑えたとしても、加工不良や機械の故障による出費など、デメリットを伴う場合があることを常に意識することが大切です。

当社の取り組み

機械を購入されたお客様に適切な潤滑油を使用していただくために、当社では以下のような対応を行っています。

社内評価による指定油の推奨

当社にて独自の試験を実施し、使用しても問題がない潤滑油を指定油として取扱説明書に記載しています。当社では、基本的に出荷時に充填してある潤滑油を使用していただくことを推奨しています。

警告シールの貼り付け

警告シール

機械出荷時には、潤滑油ユニットおよび油圧ポンプユニットに潤滑油使用上の注意を促すシールを貼り付け、注意喚起を行っています。

まとめ

今回は、工作機械の摺動面に使用する「潤滑油」について、その種類や役割、選定時の注意点について解説してきました。ポイントをまとめると次のようになります。

ポイント

  1. 同じ粘度の摺動面用潤滑油や多目的油でも、摩擦係数や送り追従性、切削油分離性が異なる
  2. 適正な潤滑油を使用しないと、機械のトラブルや加工精度の低下を招く
  3. 指定油以外の油剤で一時的に費用を抑えたとしても、機械の故障時などかえってコストがかかる可能性がある
  4. 潤滑油充填時には、原則として機械メーカが指定した潤滑油を使用する

潤滑油を正しく選んで使用することは、加工精度の維持や機械の長寿命化に欠かせないポイントです。

今回の内容を踏まえ、潤滑油の選定に役立ててみてはいかがでしょうか。

また、当社製品における潤滑油の使用についてお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。